高齢者を取り巻く法律問題 ~振り込め詐欺~

本稿では、高齢者を取り巻く法律問題のうち、振り込め詐欺について、現状の確認と予防策、被害に遭ってしまった場合の救済方法について述べます。

第1 振り込め詐欺の現状
近年の行政機関の広報活動の成果もあり、振り込め詐欺という言葉を知らない人はほぼいないのが現状です。それにもかかわらず、警察庁の統計資料によると、その総被害額は毎年数十億円単位で増加し続けており、平成21年には約95億円であった被害額が、平成27年には約390億円にまで増加しているとされています(警察庁「平成28年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について」)。そして、その被害者の8割が60歳を超える高齢者であるとされています(警察庁「平成27年の特殊詐欺認知・検挙状況等について」)。

振り込め詐欺 被害額


第2 騙されないために
現在の振り込め詐欺グループは非常に組織化されており、その手口も非常に巧妙になってきています。そのような、年々巧妙化する振り込め詐欺の被害に遭わないためには、どのような予防策が有効でしょうか。
1 一般的な予防策
まず、法律とは関係なく行える予防策として、以下のようなものが挙げられます。
・家族と日常的に連絡を取り合っておく。
・電話の声だけで、家族であるとは判断しない。
・家族の間で、電話での合言葉を決めておく。
・電話番号の変更の連絡があった場合には、古い連絡先に一度連絡を入れる。
・電話で怪しいと思ったら、すぐに家族や警察に相談する。
・ナンバーディスプレイ機能を活用する。
以上のような予防策は、知っていればすぐに実践できるという点で効果的です。いつ振り込め詐欺の電話がかかってくるか分かりませんので、まずは家族でこれらのルールをきちんと定めておくことが重要です。
2 後見制度・財産管理委託
一般的な予防策は、振り込め詐欺に冷静に対処できれば有効ですが、高齢者の方の場合、つい冷静さを欠いていたり、判断能力が衰えていたりすることで、このような予防策が功を奏さないことも多いようです。そこで、高齢者の方は、一般的な予防策に加えて、法律上の制度、具体的には後見制度の利用、財産管理委託契約の活用をすることが、有効な予防策となります。
(1) 後見制度の利用
後見制度とは、判断能力の衰えがある人のために、第三者がその人の意思を尊重しながら、その人の財産を管理することなどを通じて、生活の支援をする法律上の制度です。この後見制度は、法定後見と任意後見の大きく二つに分けることができます。
まず、法定後見制度とは、家庭裁判所が、法定の申立人の申立てにより、判断能力の衰えのある人を支援する専門家を選任する制度であり、被後見人(後見人を付される人)の判断能力の程度に従って、補助人、保佐人、成年後見人のいずれかが選任されます。このような法定後見人が選任されるためには、その時点で被後見人の判断能力が低下していることが認められる必要があります。
一方、任意後見制度とは、後見を受けようとする人が、自分が選んだ代理人との間に、財産管理などについての代理権を与える契約を結び、家庭裁判所の選任する後見監督人の監督のもとで、その代理人が契約内容に従った支援を行う制度です。任意後見制度は、後見を受けようとする者が、自ら自己の判断能力が衰える前に、あらかじめ後見人を選んでおける点、後見の内容を自由に決定することができる点に特徴があります。
以上のような後見制度を利用することで、後見人が財産を管理することになる上、法定後見の場合には被後見人がなした法律行為を取り消すことができる場合もあるため(事前に銀行等に届出が必要です)、振り込め詐欺の被害に遭うことを効果的に予防することが期待できます。
(2) 財産管理委託契約
一方、判断能力が低下する前からの予防策としては、財産の管理を専門家に委託する方法もあります。この場合、任意後見制度と類似することになりますが、後見監督人の監督が得られない点、法定後見人のような取消権は認められない点は異なるので注意が必要です。
もっとも、このような財産管理委託契約を信頼できる専門家に任せることができた場合には、振り込め詐欺の電話がかかってきた時でも、必ずその専門家に相談することになりますので、被害を予防できる確率は格段に高まるといえます。
3 その他の方法
その他の方法としては、ATMの利用限度額を引き下げておくことや、クレジットカードのキャッシング枠を0円にしておくことも考えられます。振り込め詐欺の被害に遭わないためには、多少不便であったとしても、日常生活に支障をきたさない範囲で工夫をすることは必要であるといえるかもしれません。

第3 騙されてしまったら
では、騙されてしまった場合には、被害金を取り戻す方法はあるのでしょうか。
1 振り込め詐欺救済法による救済
まず、振り込め詐欺救済法に基づく救済が考えられます。
(1) 振り込め詐欺救済法とは
振り込め詐欺救済法は、その正式名称を「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」といいます。この法律は、犯罪に利用された預金口座にあるお金を、騙し取られた被害者に分配するための手続を定めた法律です。具体的には、以下を定めています。
①金融機関に対し犯罪に用いられた疑いのある預金口座等に関する停止等の措置(取引停止措置)
②口座凍結後、口座名義人の権利を消滅させる手続(失権手続)
③口座名義人の権利が消滅した後に、被害者に適正に分配する手続(被害分配金の支払手続)
この手続を通じて、被害金を上回る分配金が残っていれば、加害者が誰か分からなくとも被害を回復することができます。
(2) 手続上の留意点
以上のように、振り込め詐欺救済法の手続を経ることで、被害金額を回収できる可能性があります。ただし、以上の手続きを経る上で、気をつけるべき点があります。
まず、警察及び金融機関への被害の届け出を、迅速に行うことが重要です。なぜなら、犯人により預金の一部が引き下ろされたような場合には、最終的な分配額が被害額よりも低くなることになるからです。届出の際には、振込受領書によって預金口座を迅速に特定することができるので、これを警察又は金融機関に提出するのがよいでしょう。
次に、上記のような手続を正しく理解し、金融機関への被害額等の申告を適時行っていくことが重要です。被害者の方は、自分が被害者であること及び被害金額について、失権手続完了後の一定期間内に申請しなければならず、この期間内に申告をしなかった場合には、被害金の分配を受けることができなくなります。
なお、全国銀行協会の資料によれば、金融機関に対し、警察や弁護士から情報提供がなされた場合には、口座凍結できる場合が多く、それ以外から情報提供がされた場合には、口座凍結ができない場合があるとされています(一般社団法人全国銀行協会「振り込め詐欺救済法における口座凍結手続きについて」)。そこで、被害者の申告だけでは金融機関が迅速に対応できないことも想定されますので、被害にあった後早期に弁護士に相談することも有効です。
3 犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律
次に、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」に基づく手続をすることも考えられます。
この法律によれば、刑事裁判で詐欺の犯人から犯罪被害財産を没収・追徴する判決が出された場合には、被害者は、没収・追徴された財産から、被害の全部又は一部に相当する額を給付金として受給することができます。ただし、被害者の方は、給付金を自動的に受け取ることができるのではなく、検察官に対する申請をする必要がありますので、この点に注意する必要があります。
4 その他の対応
以上のような手続の他に、犯人が捕まった場合には、犯人に対し、振り込んだお金を返還するように求めることも考えられます。ただし、振り込め詐欺では、犯人が判明しないことが多い上、犯人が捕まったとしても、騙し取ったお金をすでに使ってしまっている事が多く、結局被害金全額を回収することは困難であるのが現実です。
また、事情によっては、口座名義人に対する損害賠償請求をすることも考えられます。例えば、口座名義人が、犯罪に使われる可能性があることを認識しながら、自己の預金口座を他人に使わせたような場合には、この口座名義人に対して責任を追及できる場合もあります。

第4 まとめ
以上で述べたように、一度振込んでしまった財産を取り返す方法はありますが、決して容易ではありません。そこで、振り込め詐欺への対応策としては、やはり予防が最も重要であると考えることができます。
長い年月をかけて築いた財産が一瞬にして奪われてしまうことのないように、後悔のない予防策を検討することが必要であるといえるでしょう。

弁護士法人棚瀬法律事務所