認知症の画像診断-その1-

はじめに

 認知症は患者さんの症状から診断しますが、診断に迷う場合や病気の進行程度を知るなどの目的において画像検査は補助診断法として重要です。認知症に対して保険が効いて有用なものにMRI(エムアールアイ)と脳血流SPECT(スペクト)があります。MRIは磁気を用いて脳の細かい形態をみることができ、放射線被ばくもありません。脳血流SPECTは放射性医薬品を投与して、脳の血流をみることにより脳のいろいろの部位の働きを知ることができます。少量の放射線被ばくがありますが、健康には問題ありません。認知症を来す疾患にはアルツハイマー病をはじめ、いろいろなものがありますが、それぞれの疾患に特徴的な脳の萎縮(体積の減少)と血流低下がみられます。萎縮を示す部位と血流低下を示す部位は一致しないことも多く見られるため、正確な診断のためには、MRIと脳血流SPECTの両方を用いることが大切です。しかし、認知症の初期においては、萎縮や血流低下が軽い場合が多く、画像の専門家でも目で見ただけでは判断に迷うことも少なくありません。最近では、認知機能が正常な多くの健常な高齢者のMRIや脳血流SPECTの画像データベースと患者の画像をコンピュータ解析により統計学的に比較することができるソフトウェアが普及することにより、画像診断が易しくなってきています。 

アルツハイマー型認知症のMRI

 認知症の中でアルツハイマー型認知症は最も頻度が高く、半分近くを占めます。また、加齢とともに頻度が増していきます。おおよそ60歳から65歳で人口の1%、以後5歳ごとに倍々と増え、85歳以上では4人に1人がアルツハイマー型認知症と言われています。アルツハイマー型認知症では、記憶に関係する側頭葉の内側の構造である海馬や嗅内皮質の萎縮が初期からみられ、他の脳領域よりも萎縮が早いという特徴があります。海馬および嗅内皮質の正常の容積は左右合わせてそれぞれ7ml前後および2ml以下であり、全脳体積の1,300mlから比べれば、1%にも達しません。この小さな領域の萎縮をアルツハイマー型認知症の初期から正確にとらえるために、目視に加えてコンピュータ解析が行われるようになってきています。
 図1に示すのは70歳代前半の男性の初期のアルツハイマー型認知症患者の1年ごと4年間のMRIです。矢印で示す部位が海馬です。海馬は正常でも年1%ぐらいは萎縮が進みますので、年齢を考えるとこの海馬が病的な萎縮を示しているか否かは判断に迷うところです。また、萎縮が年ごとに進んでいるか否かを判断することも困難です。これを、Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer’s Disease (VSRAD®)というソフトウェアを使って解析すると、健常高齢者のデータベースと比較することにより、Zスコアが2以上、つまり健常高齢者のデータベースと比べて平均よりも2標準偏差以上萎縮している部位がカラーマップとして自動的に患者脳の上に表示されます。海馬が有意に萎縮していることが誰の目にもはっきりとわかります。また、1年ごとに海馬の萎縮が進んでいることもカラー表示の色合いが濃くなっていくことからわかります。この間にMini-Mental State Examination (MMSE)という認知症のテスト結果も30点満点中25点から16点に低下しました。

図1 アルツハイマー型認知症患者の4年間のMRI (矢印;海馬)とVSRAD®解析(Zスコアのカラースケールが明るいほど萎縮)

アルツハイマー型認知症の脳血流SPECT

 アルツハイマー型認知症の初期では、脳血流の低下が頭頂葉皮質と後部帯状回から楔前部と呼ばれる脳の後方上外側および後方上内側部にみられます。その後、側頭葉の中部から下部、および側頭葉内側部に血流低下が進み、さらに進行すると前頭葉皮質にも血流低下がみられるようになります。一方、原始的な運動や感覚機能をつかさどる中心溝周囲皮質、視覚中枢である後頭葉、聴覚中枢である側頭葉上部、基底核、小脳はアルツハイマー型認知症が進行しても血流が保たれています。MRIで最初に萎縮がみられる側頭葉内側部は、初期には血流低下がはっきりしません。また、65歳以上で発症するアルツハイマー型認知症では頭頂葉の血流低下はみられるのに萎縮はめだたないことがほとんどです。このように、萎縮と血流低下部位が一致しない部位が多いことがアルツハイマー型認知症の特徴です。
 図2に示すのは60歳代半ばの女性の初期のアルツハイマー型認知症患者の脳血流SPECTです。この症例では脳血流SPECTを目でみても、異常を指摘することは困難です。これを、easy Z-score Imaging System (eZIS)というソフトウェアを使って解析すると、健常高齢者のデータベースと比較することにより、健常データベースと比べて平均よりも2標準偏差以上の血流低下がみられる部位がカラーマップとして自動的に標準的な脳の上に表示されます。赤色の線で囲まれた領域が、アルツハイマー型認知症の初期で特に血流が低下する領域です。この領域の中に2標準偏差以上の血流低下がみられていることから、アルツハイマー型認知症と考えることができます。頭頂葉のみならず、矢印で示す後部帯状回から楔前部にも血流低下がみられていることがわかります。

図2 アルツハイマー型認知症患者の脳血流SPECTとeZIS 解析(矢印;後部帯状回~楔前部)
(Zスコアのカラースケールが明るいほど血流低下)

おわりに

 アルツハイマー型認知症の画像診断において日本で最も良く行われているMRIと脳血流SPECTについて説明しました。今後、認知症をきたす他の疾患での画像診断の特徴や、認知症で役に立つ他の画像診断についてご説明します。

国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージングセンター
松田博史